初音

           

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  「年月を松にひかれて経る人に 今日鴬の初音聞かせよ」

                                                                                         (源氏物語第23帖)

 

   場面は、源氏36歳の元旦。この年は、元日と初子(正月最初の子の日で、小松を引き抜いて長寿を祝う)が重なり、源氏の住まう六条院は新春を慶ぶ麗らかな空気に溢れ

 

ています。その中で、明石の姫君の元に生母明石の君から、贈り物と共に表題の和歌が届きます。明石の君は、出自こそ高くはないものの、美貌、教養、品位において申し分のない女性で、源氏蟄居の折、明石の姫君を身ごもりました。しかし、明石の姫君を将来天皇の后とすることを嘱望する源氏は、明石の姫君を紫の上に養育させることとし、明石の君から引き取っていたのでした。

 我が子の便りを聞きたい。この歌は、「松」「はつね」といった、おめでたい言葉使いながら、端々から正月にさえ娘に対面が叶わない母が、子の健やかな成長と安否を憂慮する気持ちがほとばしり、絢爛豪華な描写の中に、ぐっと情景に奥行きをもたらしています。

 慶事の中にも子を案ずる親心を象徴するこの歌は、数えの三歳でお嫁入りした三代将軍徳川家光の娘、千代姫の婚礼調度の題目ともされました。この道具一式は国宝初音の調度として知られています。

 今回は、製作者の遺品の中に源氏物語絵巻の複製画を見つけたことから着想を得て、いつも家族のことを思っていた製作者に思いを馳せつつアレンジしてみました。

 

 

 

 

 

*上記写真の絵巻の複製画は「初音」ではなくて「宿木」の帖のものです*